第1回兼題 入賞結果発表
第1回(2025年12月)
兼題:冬灯|夢
優秀賞
冬灯揺れぬ水面に一葉かな
(仁)
選評
「揺れぬ」水面に冬灯が定まり、「一葉」が静けさへそっと動きを添える。灯のぬくみと水の冷えが同居し、景は簡素ながら深い余韻を残す。小さきものが全体の均衡を支え、読む心に澄んだ沈黙が広がる。
佳作
投函に冬灯の軟さすくいけり
(東祐美)
選評
「軟さ」を“すくう”という把握が新鮮で、冬灯を触覚へ引き寄せた。投函という日常の所作が、光の質感を際立たせ、冷えた空気の中にやわらかな間合いが生まれる。
佳作
終電の窓に灯るや冬灯
(仁極残)
選評
「終電」の遅い時刻と「窓に灯る」一点が、帰り道の寒さと人の暮らしを凝縮する。車窓の矩形が小さな灯を囲い、都市の闇に温度を与える景がはっきり立ち上がる。
入選
- 冬灯増えることなき故郷かな (絹山夢村)
- 海峡の波をまくらに夢うつつ (紫炎)
- 冬の灯や我が家で払う肩の雪 (米山カローリング)
- どの夢も冬に持てども幸の息 (今音)
AI三俳人の評議記録
「どのように読み、迷い、話し合って決めたのか」その選評の過程の一部をご紹介。
AI蕪村
まずは『冬灯揺れぬ水面に一葉かな』。水面が鏡となって灯を定着させ、そこへ“一葉”が画面の余白を引き締める。動かぬものと小さき動きの対比が効いております、淡き光が水に映るごとし。
AI芭蕉
うむ。『揺れぬ』の一点が、冬灯をただの灯ではなく、心の静まりに移しておる。そこへ『一葉』、言葉少なくして景を成す。細みの趣きあり、と見ゆ。
AI一茶
おらも好きだよ。水面ってのは寒いのに、灯が揺れぬってのが、妙にほっとするんだな。そこに葉っぱ一枚、かわいそうでもあり、いじらしくもあるじゃなかろか。
AI蕪村
優秀賞の核になり得ますね。次に私は『終電の窓に灯るや冬灯』も推したい。窓がひとつの額縁で、暗い夜に灯が点る。都市の夜景を切り取る構図として鮮明、窓の一点が夜をとどむごとし。
AI一茶
終電は人の暮らしそのものだね。くたびれた背中が見える。窓の灯が“冬灯”って言われると、帰り道の寒さまで一緒に来るじゃなかろか。
AI芭蕉
終電の句は人の気が濃い。冬灯が“窓に灯る”ことで季語は働くが、なお一句の静けさは先の水面ほど深くは沈まぬか。されど、世の姿を写す一作とは見ゆ。
AI蕪村
なるほど。では『投函に冬灯の軟さすくいけり』。これは手元の所作が近景として立ち、軟い光が指先に触れている。抽象を“掬う”動作に落としているのが巧い、柔光が掌ににじむごとし。
AI芭蕉
『軟さ』を掬う、言い得て妙。灯を“見る”でなく“触れる”へ移しておる。しをりがある。ただ、投函という動作がやや具体に寄り、余白の取り方で勝負が分かれるところか。
AI一茶
でも投函って、誰でもやるだろ? 冬の寒い夕方にさ、ポストに入れて、灯がやわらかいって感じるの、わかるんだよ。生活の中の冬灯でありましょう。
AI蕪村
芭蕉殿の言う余白の点は確かに。けれど“軟さ”という質感の掴みは上位だと思います。さて、他の候補も見直しましょう。芭蕉殿が挙げた『冬灯増えることなき故郷かな』はどうでしょう。
AI芭蕉
これは“増えることなき”の言葉で、故郷の時間が止まっておる。冬灯が数として増えぬことで、寂しさが立つ。だが一句としては観念に寄りやすく、景の手触りをあと一息残したきところもある、と見ゆ。
AI一茶
故郷って言われると胸がきゅっとするけどね。増えない灯ってのは、残された家や人を思っちまう。だけど、読む人によっては寂しさが先に立つかもしれん、なんともいじらしい。
AI蕪村
画面としては“故郷”が広く、灯の位置が定まりにくい。余白が大きい分、読者の補完力に委ねる句ですね。選としては上位に残すか迷う、景が遠景に溶けるごとし。
AI蕪村
もう一つ、芭蕉殿の『海峡の波をまくらに夢うつつ』。これはスケールが大きい。海峡の波を枕にする大胆さがあり、遠近の広がりは魅力です、波が寝所を包むごとし。
AI芭蕉
大きな景に“夢うつつ”を添える取り合わせは面白い。されど“波をまくら”はやや強き比喩で、軽みを失う危うさもある。夢と現の間(ま)を残す工夫は見ゆ。
AI一茶
海峡を枕にするってのは大きすぎて、おらの暮らしからは遠いけど、夢うつつってのはわかるよ。けれど、今月の“冬灯”の灯のぬくみとは少し別の方向かもしれんじゃなかろか。
AI芭蕉
兼題が二つあるゆえ、夢の句も上位に入れ得るが、全体として今月は“灯”の句が優れておるように見ゆ。『どの夢も冬に持てども幸の息』は一茶殿の推しであったな。
AI一茶
うん。『幸の息』が好きなんだ。冬に夢を持つのは苦しいこともあるけど、息が白くなるみたいに、幸せがふっと出る。あったかい希望があるでありましょう。
AI蕪村
言葉の温度は確かにあります。ただ画面としては“夢”“息”が見えにくく、視覚化の糸口が少ない。読者の胸に置く句で、絵としては淡くにじむごとし。
AI芭蕉
情はよいが、景の定まりが薄い。冬の空気を“幸の息”へ結ぶ力はあるが、上位の三句に並べるかは迷うところ、と見ゆ。
AI一茶
なるほどね。じゃ、今の流れだと、上位の核は『冬灯揺れぬ水面に一葉かな』『投函に冬灯の軟さすくいけり』『終電の窓に灯るや冬灯』この三つが残りそうじゃなかろか。
AI蕪村
同感です。構図と質感で三者が違う角度から推せる三句。『冬の灯や我が家で払う肩の雪』も一茶殿の推しで良いが、今回は“映像の決まり”という点で上の三句が一歩前に出る、室内の明暗が惜しくも淡くにじむごとし。
AI芭蕉
『肩の雪』の句も人の気があり捨て難いが、三句へ絞るなら上の三つに落ち着く。よし、この三句を改めて吟味しよう、と見ゆ。
